

牧野新日本植物図鑑
MAKINO's NEW ILLUSTRATED FLORA OF JAPAN
昭和36年6月30日初版発行
昭和57年5月30日第39版発行(定価15000円)
著者 牧野富太郎
発行 (株) 北隆館
中学生のときだったか、本を買いに大きな書店に行ったとき、気にはなっていたが高価で手が出なかった図鑑。それが牧野富太郎の植物図鑑。緑の帯のデザインを覚えているので、多分これだろうと思う。当時の定価は15,000円。今考えれば、内容にしては安いものだ。
その頃植物図鑑といえば牧野植物図鑑のことだった。それぞれの植物にはすべて手書きの絵が添えられ、要領を得た説明が加えられている。その植物画に惚れていたのだが、本屋の棚にはすでにカラー写真の植物図鑑もあったと思う。一見カラー写真の方がよいように思えるが、実際は牧野植物図鑑のように、特長をとらえた絵のほうが分かりよい。写真はある個体の様子を写しているが、それがその種の特徴を的確に表しているとは限らない。牧野植物図鑑の絵は、花の特徴、結実した実の形、葉の形、付き方などの特徴を誇張することなく自然に描いている。もちろん一長一短はあり、花の色などについては言葉で説明するしかないので、微妙な色、グラデーションなどは色名から想像することになる。
この図鑑の並び方は名前のあいうえお順ではなく、花の色別でもない。「科」で並んでいる。植物の専門家はどうのように使うかは知らないが、おそらく各科の特徴をあらかじめ把握しておき、その科、つまり近縁のものを探すのだろう。たとえば、花が「りんどう」に似ているなら、「りんどう科」を探すことになる。花が無い場合は葉の形や付き方などから「りんどう科」ではないかと見当をつけて「りんどう科」の24種の中から探すことになる。では何科なのかさっぱりわからない場合はどうするか。お手上げである。
つまりこの図鑑を使いこなすにはある程度植物分類の知識が必要である。つまり、植物の「科」がそれぞれどのような特徴で分類されているのかをあらかじめ知っておかなければならない。図鑑の中には葉の形、付き方、花の形などからフローチャートを辿るように、検索できるものもあるが、この図鑑はそうはなっていない。そこで、どうにかして目的の植物にたどり着けないか。今更植物分類学を勉強するわけにはいかないので、文明の利器を使うのである。そう、スマホアプリの「レンズ」を使ってあらかじめ本種またはその近縁を調べておくのである。
たとえば、この紫の花。これを「レンズ」で調べると、ずばり「さわぎきょう」と出る。ご名答! このとき「レンズ」はほとんど花からしか調べないが、写真には花以外に葉の形や、付き方、草丈、生育地の様子も写しておくべきだ。

「さわぎきょう」
湿地に生え、草丈は1mくらい。
花は紫色で花びらのうち三枚が虫を誘うように前に垂れている
八ヶ岳山麓 稲子湯にて
これを「ききょう科」だと分かる人はいいが、素人目にはなかなかそうはいかない。たとえこのように花が咲いていても、一般的 なあの「ききょう」には似ても似つかない形をしている。その点で「レンズ」は便利である。間違うことも多いが、一定のヒントを与えてくれる。今回はズバリ「さわぎきょう」にたどり着けた。

牧野伸日本植物図鑑の「さわぎきょう」の項
ところで「ききょう科」の「さわぎきょう」にはどんな近縁、つまり同じ科の植物があるのか。この図鑑でそれを知るには「さわぎきょう」の掲 載されているページの前後の「ききょう科」の植物を見ればよい。すぐ上の「あぜむしろ」別名「みぞかくし」は、「さわぎきょう」とは似ても似つかない、こちらは地面を匍匐(ほふく)する植物だ。植物学者はどこをどう調べて「さわぎきょう」と「あぜむしろ」を同じ科と判断したのだろうか。素人目には掲載されている絵から、なんとなく花の形は似ているような気がするが。このような点は興味深いところだ。

「おたからこう」
湿地に生え、草丈は1mくらい。
大きく丸い葉は山ブキのようにも見える
八ヶ岳山麓 稲子湯にて
さて、「さわぎきょう」を見つけたあとさらに木道を行くと、さきほどよりは少し乾燥しているが、沢の近くの湿気のある場所に「おたからこう」がまだ花を付けていた。群生して、いたるところに黄色い花がにょきにょき立っていた。フキもこの「おたからこう」も同じきく科で、葉が素人目には同じように見える。よく見ると、図鑑の絵のように、大きな葉の周囲に細かい刻み(きょ歯)が入っている。
この植物は亜高山帯にもあるようだが、丈が低くなるようだ。「おたからこう」に対して「めたからこう」もあり、「おたからこう」はつまり「雄たから香」。「めたからこう」は「雌たから香」らしい。「めたからこう」のほうが葉が全体的に小さく、「おたからこう」よりもやさしく見えるそうだ。「たから香」というのは「龍脳香」(りゅうのうこう)のことで、たからこうの根茎からそれと同じ香りがするからだそうだ。「龍脳香」はクスノキからとれる樟脳(しょうのう)を生成したもののようで、樟脳に似た香りがするか、現地でちょっと茎を折って匂いをかいでみればよかったと、今更ながら後悔している。

牧野伸日本植物図鑑の「おたからこう」の項
深淵な植物分類の世界。新種を見つける目。それはあらゆる植物の特徴が整理されて、いつでも取り出せるように整理されたデーターベースであるはずだ。分類法にもいくつかあるらしく、ある植物学者の分類法に異議をとなえる植物学者も居るらしい。そういうこともあって分類学は難しい。しかし最近DNAを用いた分類も進められているらしい。同じような姿特徴の植物が、ま ったく違うものに分類されるかも知れない。動物、とくに昆虫の世界にもあるが、毒を持つ蝶に擬態する蝶などがあるが、植物も毒のある植物に擬態しているような植物があれば、同じ科に分類されているが、実は遺伝的には別物であったりするかも知れない。なんて想像するのも楽しい。とにかくDNAのレベルで分類されると、より植物の進化に迫れるかもしれない。
以下は牧野伸日本植物図鑑に収録されている「科」ごとの種数。
番号はその「科」の先頭種の収録番号。種名は、その科の山で見かける主な種。
0001 まつばらん科 1種
0002 ひかげのかずら科 13種
0016 いわひば科 6種 くらまごけ
0022 みずにら科 1種
0023 とくさ科 4種 すぎな
0027 はなやすり科 6種
0033 りゅうびんたい科 1種
0034 ぜんまい科 5種 ぜんまい
0039 かにくさ科 1種
0040 うらじろ科 3種 うらじろ
0043 こけしのぶ科 7種
0050 すじひとつば科 1種
0051 きじのお科 3種
0054 へご科 2種
0056 うらぼし科 165種 いのもとそう
0221 みずわらび科 1種
0222 でんじそう科 1種
0223 さんしょうも科 2種
0225 そてつ科 1種
0226 いちょう科 1種
0227 いちい科 3種
0230 まき科 3種
0233 いぬがや科 2種
0235 まつ科 28種 こめつが しらびそ からまつ
0263 すぎ科 5種 すぎ
0268 ひのき科 20種 ひのき
0288 まおう科 1種
0289 もくまおう科 1種
0290 どくだみ科 2種 どくだみ
0292 こしょう科 2種
0294 せんりょう科 4種 ひとりしずか
0298 やなぎ科 19種
0317 やまもも科 2種
0319 くるみ科 3種 さわぐるみ
0322 かばのき科 25種 しらかば だけかんば
0347 ぶな科 22種 ぶな かしわ みずなら
0369 にれ科 7種 けやき
0376 くわ科 20種
0396 いらくさ科 28種
0424 かわごけそう科 1種
0425 やまもがし科 1種
0426 ぼろぼろのき科 1種
0427 びゃくだん科 2種
0429 やどりぎ科 5種 やどりぎ
0434 うまのすずくさ科 9種 かんあおい
0443 やっこそう科 1種
0444 つちとりもち科 4種
0448 たで科 61種 いたどり
0509 あかざ科 20種
0529 ひゆ科 12種
0541 おしろいばな科 2種
0543 やまとぐさ科 1種
0544 やまごぼう科 3種
0547 つるな科 5種
0552 すべりひゆ科 5種
0557 つるむらさき科 1種
0558 なでしこ科 72種 ふしぐろせんのう
0630 もくれん科 17種 たむしば
0647 やまぐるま科 2種
0649 かつら科 2種 かつら
0651 すいれん科 8種 ひつじぐさ
0659 まつも科 1種
0660 きんぽうげ科 80種 しらねあおい しなのきんばい とりかぶと
0740 あけび科 4種 あけび
0744 めぎ科 16種
0760 つづらふじ科 5種
0765 ろうばい科 2種 ろうばい
0767 にくずく科 1種
0768 くすのき科 20種 くすのき しろだも
0788 けし科 21種 むらさきけまん
0809 ふうちょうそう科 4種
0813 あぶらな科 66種 わさび
0879 もくせいそう科 2種
0881 もうせんごけ科 7種 もうせんごけ
0888 うつぼかずら科 1種
0889 べんけいそう科 26種 いわべんけいそう
0915 ゆきのした科 69種 だいもんじそう うつぎ やまあじさい
0984 とべら科 3種
0987 まんさく科 9種 まんさく
0996 すずかけのき科 2種
0998 ばら科 175種 しもつけ ななかまど やまぶき みやまきんばい
1173 まめ科 120種 やまふじ
1293 かたばみ科 8種
1301 ふうろそう科 18種 はくさんふうろ ぐんないふうろ
1319 のうぜんはれん科 1種
1320 あま科 3種
1323 こか科 1種
1324 はまびし科 1種
1325 みかん科 32種 さんしょう
1357 にがき科 2種
1359 かんらん科 1種
1360 せんだん科 2種
1362 ひめはぎ科 6種
1368 とうだいぐさ科 35種
1403 あわごけ科 2種
1405 つげ科 4種
1409 がんこうらん科 1種
1410 どくうつぎ科 1種
1411 うるし科 7種 うるし
1418 もちのき科 18種 くろがねもち たらよう
1436 にしきぎ科 18種 まゆみ
1454 みつばうつぎ科 3種
1457 くろたきかずら科 1種
1458 かえで科 28種
1486 とちのき科 2種 とちのき
1488 むくろじ科 5種
1493 あわぶき科 4種
1497 つりふねそう科 4種
1501 くろうめもどき科 15種
1516 ぶどう科 11種 やまぶどう
1527 ほるとのき科 2種
1529 しなのき科 7種
1536 あおい科 22種
1558 あおぎり科 3種
1561 さるなし科 4種
1565 つばき科 13種 ひさかき
1578 おとぎりそう科 16種
1594 みぞはこべ科 1種
1595 ぎょりゅう科 1種
1596 すみれ科 45種 たちつぼすみれ
1641 いいぎり科 2種
1643 きぶし科 1種
1644 とけいそう科 1種
1645 しゅうかいどう科 3種 しゅうかいどう
1648 さぼてん科 2種
1650 じんちょうげ科 10種 みつまた
1660 ぐみ科 8種
1668 みそはぎ科 9種
1677 ざくろ科 1種
1678 ひるぎ科 3種
1681 うりのき科 1種
1682 しくんし科 1種
1683 ふともも科 2種
1685 のぼたん科 2種
1687 ひし科 4種
1691 あかばな科 19種 まつよいぐさ
1710 ありのとうぐさ科 4種
1714 すぎなも科 1種
1715 うこぎ科 15種 うど
1730 せり科 60種 しらねにんじん
1790 みずき科 7種 やまぼうし ござんたちばな あおき
1797 いわうめ科 4種 いわうちわ いわかがみ
1801 りょうぶ科 1種
1802 いちやくそう科 7種 いちやくそう ぎんりょうそう
1809 つつじ科 67種 あずましゃくなげ やまつつじ あせび しらたまのき
1876 やぶこうじ科 6種 まんりょう
1882 さくらそう科 36種 くりんそう かっこそう
1918 いそまつ科 4種
1922 かきのき科 4種
1926 はいのき科 8種
1934 えごのき科 5種 はくうんぼく
1939 もくせい科 21種 しおじ
1960 ふじうつぎ科 5種
1965 りんどう科 24種 いわいちょう
1989 きょうちくとう科 7種
1996 ががいも科 21種
2017 ひるがお科 14種
2031 はなしのぶ科 3種
2034 むらさき科 22種
2056 くまつづら科 22種 むらさきしきぶ
2078 しそ科 90種 きらんそう たつなみそう らしょうもんかずら いぶきじゃこうそう
2168 なす科 37種 はしりどころ
2205 ごまのはぐさ科 71種 きり くわがたそう よつばしおがま
2276 のうぜんかずら科 3種
2279 ごま科 2種
2281 つのごま科 1種
2282 はまうつぼ科 5種
2287 いわたばこ科 5種
2292 たぬきも科 9種 こうしんそう
2301 きつねのまご科 8種
2309 はまじんちょう科 1種
2310 はえどくそう科 1種
2311 おおばこ科 5種 おおばこ
2316 あかね科 50種 くちなし
2366 すいかずら科 45種 むしかり たにうつぎ
2411 れんぷくそう科 1種
2412 おみなえし科 9種 きんれいか
2421 まつむしそう科 3種 まつむしそう
2424 うり科 24種 からすうり
2448 ききょう科 20種 ほたるぶくろ つりがねにんじん
2468 きく科 294種 ふじばかま ふき かにこうもり たかねにがな
2762 がま科 3種
2765 たこのき科 1種
2766 みくり科 3種
2769 ひるむしろ科 15種
2784 いばらも科 3種
2787 ほろむいそう科 1種
2788 おもだか科 7種
2795 とちかがみ科 9種
2804 ほんごうそう科 2種
2806 いね科 216種 くまざさ
3022 かやつりぐさ科 205種
3227 やし科 8種
3235 さといも科 26種 みずばしょう ざぜんそう うらしまそうまむしぐさ
3261 うきくさ科 3種
3264 ほしくさ科 6種
3270 ぱいなっぷる科 1種
3271 つゆくさ科 8種
3279 みずあおい科 3種
3282 たぬきあやめ科 1種
3283 いぐさ科 21種
3304 びゃくぶ科 4種
3308 ゆり科 132種 しょうじょうばかま こばいけい ぎぼうし ぜんていか きんこうか
3440 ひがんばな科 15種
3455 やまのいも科 11種
3466 あやめ科 22種 しゃが
3488 ばしょう科 3種
3491 しょうが科 9種
3500 かんな科 2種
3502 ひなのしゃくじょう科 3種
3505 らん科 113種 くまがいそう はくさんちどり
3618 苔類 27種
3645 蘚類 51種
3696 しゃじくも科 6種
3702 ひとえぐさ科 1種
3703 あおさ科 3種
3706 しおぐさ科 2種
3708 はねも科 1種
3709 いわづた科 1種
3710 みる科 4種
3714 まつも科 1種
3715 むちも科 1種
3716 あみじぐさ科 7種
3723 ながまつも科 3種
3726 うるしぐさ科 1種
3727 こもんぶくろ科 1種
3728 かやものり科 4種
3732 いしげ科 2種
3734 つるも科 1種
3735 こんぶ科 9種
3744 ひばまた科 2種
3746 おんだわら科 10種
3756 うしけのり科 2種
3758 べにもずく科 3種
3761 がらがら科 4種
3765 てんぐさ科 6種
3771 なみのはな科 2種
3773 さんごも科 1種
3774 むかでのり科 7種
3781 ふのり科 1種
3782 つかさのり科 1種
3783 みりん科 2種
3785 いばらのり科 1種
3786 ゆかり科 1種
3787 おごのり科 4種
3791 おきつのり科 2種
3793 すぎのり科 4種
3797 だるす科 1種
3798 わつなぎそう科 1種
3799 いぎす科 1種
3800 このはのり科 1種
3801 ふじまつも科 3種
3804 びんごけ科 1種
3805 さんごごけ科 1種
3806 もじごけ科 1種
3807 いわのり科 1種
3808 よろいごけ科 2種
3810 つめごけ科 1種
3811 へりとりごけ科 1種
3812 はなごけ科 3種
3815 きごけ科 2種
3817 いわたけ科 2種
3819 とりはだごけ科 1種
3820 ちゃしぶごけ科 1種
3821 あんちごけ科 1種
3822 うめのきごけ科 7件
3829 さるおがせ科 4種
3833 むかでごけ科 1種
3834ちゃわんたけ科 3種
3837 てんぐのめしがい科 2種
3839 のぼりりょうたけ科 1種
3840 にくざきん科 2種
3842 まめざやたけ科 1種
3843 きくらげ科 1種
3844 いぼたけ科 1種
3845 ほうきたけ科 2種
3847 はりたけ科 4種
3851 さるのこしかけ科 7種
3858 まつたけ科 24種
3882 すっぽんたけ科 4種
3886 かごたけ科 3種
3889 しょうろ科 1種
3890 ほこりたけ科 3種
3893 ひめつちぐり科 1種
3894 ちゃだいごけ科 1種
3895 にせしょうろ科 1種
3896 つちぐり科 1種
(雅熊)